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2025年8月13

人材から人財への道のり::Vol.86::二重ターゲット

■目標やKPIに関しての日系と非日系の違い
日系企業では、マネジメントバイオブジェクティブ(MBO)として、スタッフが自分で目標を設定し、それを上司と相談してアドバイスを受けながら具体的に決めて実行することが一般的です。これは非常に標準的なプロセスであり、特に問題はありません。言い換えれば、みんながこの方法でそれを行い、それを普通と感じていると言えます。

一方、ローカル企業はKPIを頻繁に設定し、厳格に追求します。日系企業がボトムアップ型であるのに対し、ローカル企業はトップダウン型という違いがあります。この違いゆえに、ローカル企業では実力があれば目標を達成して得た成果を皆で分配し、達成できなければ去るという考え方が強い。日系企業は結束を高め、互いに補完し合いながら取り組むのが基本で、できないからといってすぐにクビにされることはない一方、成果はローカル企業や欧米企業ほどは分配されないのが現実です。大きな違いはその程度であり、最終的にはどちらも社員が目標を掲げ、その達成に向けて努力する点は同じです。

■やはりKPIはプレッシャーで好む人は少ない
一般に、KPIは若手社員ほど嫌がる傾向があります。能力開発の途上で自分の力に自信が持てない、あるいは実力以上に高く設定されがちなため、会社としては挑戦を促したい一方、安定・安全を求める多くの社員にとっては大きなプレッシャーになります。そのため、KPI目標は当初、好意的に受け止められないことが少なくありません。自信がつき運用に慣れてくれば考え方も変わり、「やってやろう」という気持ちに移行していきますが、キャリア初期やジュニア層の段階では、KPIを渋々受け入れているのが現状です。こうした傾向は日系企業に限らず、欧米のローカル企業でも共通して見られる現象ではないでしょうか。

KPIを受け入れる際の心理状況も大きく関係します。いわゆる心理的安全性のことですが、たとえ仕事に強いプレッシャーがあっても、簡単には解雇されず、会社が長期的に面倒を見てくれるという前提があるため、日系企業では心理的安全性が保たれ、それが会社のために一生懸命働くための前提条件になっています。一方、ベトナムのローカル企業や欧米企業には、そのような生活保障の発想はあまりありません。したがって、選択肢は、プレッシャーの少ないバックオフィスの仕事か、高報酬だがKPI負荷の高い仕事かの二択になりがちです。

KPIを身近に感じ、ゲーム感覚で挑戦できる仕組みがあればよいと、誰もが考えるはずです。そこで有効なのが、3P給与スキームの活用です。Person(人材)に関するKPIは達成しやすい水準に設定し、Performance(成果)に応じてインセンティブを付与する仕組みになっています。通常の努力であれば基本的にKPIは達成でき、それ以上に頑張れる人は次の段階を目指してインセンティブを享受できます。課題は、ベトナムでは日本よりも一般に目立つことを避ける傾向があり、内心では「自分の力を試したい」と思っていても、周囲の目を気にして力を出し切って上を目指しにくい点です。ある意味では、社会人としての成熟が十分でない一面や、教育のあり方が生んだ産物とも言えるのかもしれません。

■KPIの二重設定で、心理的安全性とチャレンジ精神の双方を確保する
社員にはさまざまな価値観があります。家庭を優先したい人、プライベートの時間を大切にしたい人、社会との関わりを通じて自分を活性化したい人。仕事に強い情熱を持つ人もいれば、そうでない人もいる。中には、仕事が好きで、仕事一本で上を目指したいという人もいるでしょう。また、志向は時期によって変わります。これまで仕事一本で取り組んできたが、一定の目標にめどが立った今は家庭に軸足を移したい人もいれば、学生時代は安定志向だったものの、自信・知識・人脈を蓄えてきたことで、これから思い切りチャレンジしたいという人もいるはずです。

そこで、KPIは必ず「最低KPI」と「最高KPI」を同時に設定するのが良いと思います。最低KPIは必ず達成するラインとして、確実に到達できる水準に置く。一方、最高KPIは達成できたら自分をすごいと思え、誇りにできるレベル。周囲からも自分自身からも評価され、自信が持てる、そんな基準にします。

最低水準、すなわち必達ターゲットは、通常の努力で達成可能なレベルに設定します。これは心理的安全性を生み出すための基盤です。例えば、1カ月(4週)のうち3週程度は達成できる水準にしておく。そこで安心感を得て、次の挑戦に向かうことができます。

これに対し、ターゲットを一つだけにすると負荷が高くなり、未達の月が生じたり、平均的なメンバーでは達成率が常に6〜7割に留まったり、最も優秀な人であっても未達の月が出ることも少なくありません。一方、二重ターゲットなら、最低ターゲットは常に達成できます。すると「自分は役に立っている」「仕事ができている」という自尊心が醸成・強化され、その土台の上で次に向けて頑張れるようになります。

同じチームパフォーマンスでも、二重ターゲットで表現すれば「最低ターゲットは100%達成。チームは堅実だ。そのうえで2〜3人はエクセレント(ストレッチを達成)」と語れる。表現の仕方一つで、チーム全体の雰囲気や自尊心は大きく変わります。やがて「必達は必ず達成する」という暗黙の規範が文化として根づき、チャレンジ精神と自尊心が両立する、バランスの取れたチームになっていきます。

※3P給与スキームはPosition(職務)、Person(人材)、Performance(成果)の3つの要素に基づいて報酬を決定する仕組みであり、まず職務の重要度や責任範囲に応じて基本給水準を定め(Position)、次に個人の経験・能力・資格などの特性を反映させ(Person)、さらに業績や目標達成度に応じて成果給やインセンティブを支給する(Performance)ことで、透明性と納得感の高い給与体系を実現する。

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プロフィール
Nguyen Dinh Phuc
E-mail: nguyen.dinh.phuc@hrnavi.com
Tel: 097 869 8181

国費留学生として、選ばれ、1996年~2006年まで日本で留学と仕事を経験したのち、ベトナムに戻り、日系企業に対して、経営助言のコンサルティングをしました。ベトナム人は比較的にレベルが高くないという実態をなんとかしたく、2010年からアイグローカルリソースを創設、ベトナムにある人材のレベルアップを会社のミッションに、日々、努力しています。

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